
京都府京都市伏見区深草に鎮座する伏見稲荷大社は、全国に約3万社ある稲荷神社の総本宮、その歴史は平安遷都よりも古く、和銅4年(711年)の創建と伝わる。
ご祭神は宇迦之御魂大神・佐田彦大神・大宮能売大神・田中大神・四大神の五柱からなる稲荷大神で、ご利益は五穀豊穣や商売繁盛、家内安全、諸願成就。
もとは農耕の神として祀られてきたが、中世から近世にかけて商売繁昌・家内安全の神として全国に信仰が広まり、今や外国人旅行者にも世界有数の人気観光地として知られる。
最大の見どころは、鮮やかな朱塗りの鳥居がズラリと連なる千本鳥居。これは江戸時代以降、願いごとが通るようにまたはその感謝を込めて、鳥居の奉納が広まったことによるもの。
稲荷山全体で約1万基、そのうち千本鳥居と呼ばれる区間には約800基の鳥居が密集している。木製のため新陳代謝が激しく、平均して1日に3本弱を新しく建てたり修理したりしている。
本殿や豊臣秀吉が母の病気平癒を願い寄進したとされる楼門は重要文化財に指定されており、稲荷山全体が神域とされ、複数のパワースポットを巡るお山めぐりは全長約4キロ、所要時間約2時間のコース。
境内は24時間参拝可能で拝観料は無料という懐の深さも、昼夜を問わず参拝者が絶えない理由のひとつ。
アクセスはJR奈良線稲荷駅下車すぐ、または京阪本線伏見稲荷駅から徒歩約5分。京都駅からはJRで約5分という抜群の立地、世界的な観光地でここまでアクセスしやすい所もそうそう無い。

ライトアップされた鳥居が闇の中に血のように赤く浮かび上がり、奥へ奥へと吸い込まれるように続く。

昼間の朱色の鳥居も好きですが、夜にライトで照らされた鳥居は、昼とは別物ですな。

鳥居が奥へ続くにつれて、だんだん暗くなっておる。しかし消えない。最後に微かな光が残っておる。

あれは何でしょうな。参道の奥の明かりでしょうが……あの光のせいで、引き返せない感じがしませんか。

誰もいない深夜の伏見稲荷大社、怖いのう。

客観的にみたら、そこで淡々と写真撮ってる我々もなかなか怖いはずです。

夜の参道の闇の中に、キリンの自動販売機が煌々と光る。

……ほう。生茶が250円か。

宗匠、コンビニより高いですね。

神域価格というやつじゃな。鳥居をくぐるたびに飲み物が値上がりしていく。

そういうご利益は要らないですよ。ポカリも250円か。まあ仕方ない、お山めぐりの前ですし……あ、右の機、ポカリが250円で、左のコーラ機のが……

いくらじゃ。

同じ250円でした。神域では全部250円に統一されているようです。

そういう意味では公平じゃのう。コーラも生茶も神の前では皆等しく250円。

でも宗匠、よく考えたら夜の稲荷山に自販機があること自体、ありがたくないですか。4キロのお山めぐりの途中で買えるんでしょう。

それはそうじゃ。真夜中の神域で飲み物が買える。……250円でも。

「……250円でも」って間が長かったですね。

石畳に赤い光が反射してぬめるように光っている。

ここは……言葉を出してはいけない気がするのじゃ。

昼間の千本鳥居とは別物ですよ。完全に。

柱の苔を見よ。長い時間をかけて、ここまで育っておる。この鳥居は奉納されてから、ずっとここで雨に打たれ、苔を生やし続けてきた。

新しく建てたときは真っ赤だったんでしょうけど……今は色が抜けて、苔が混じって、別の色になってますね。

塗り立ての朱より、時間の積み重なった朱の方が、深みがあるのう。

夜の社殿前、石造りの狐像が金糸と赤の豪華な錦の衣をまとって闇に立つ。

狐が錦を着ておるのう。

豪華ですよね。金糸に赤地、鳳凰の刺繍まで。これは乙。

じゃが見よ。石の肌はこれだけ古びて、白くまだらになっておる。衣だけが新しく、中身は何百年も前からここにいる。

あ……確かに。衣がなければ、かなり風格のある古い石狐なんですよね。

古い石と新しい錦。この取り合わせが、この狐を特別にしておる。古いものと新しいものを並べることで、互いが際立つ。

宗匠、それ、拙者が好きな「歪みの美」に近くないですか。完璧に整ったものより、何か一つ違うものが混じっている方が乙という。

そうかもしれぬ。今夜は認めよう。

夜の稲荷山中腹、竹林と雑木が入り混じる参道脇に2頭のイノシシが現れた。

あれは何じゃ。

……イノシシですね。2頭。

……。

宗匠、どうしますか。

……静かにしておれ。向こうもこちらに気づいておる。

気づいてますよね。こっち見てますよね今。

見ておる。じゃが動いておらぬ。こちらも動かなければよい。

宗匠、拙者、織部焼を世に広めたい。まだやり残したことがあります。

織部焼はちゃんと既に世に広まっておるから安心して涅槃へ・・・

…あ、向こうへ行きましたよ。竹林の奥に入っていった。

お隠れになったうちに、先を急ごうぞ。

朱鳥居の額縁の中に、京都市南部の夜景が広がる絶景。

……登ってきてよかったのじゃ。

ですね。イノシシに脅えながら登ってきた甲斐がありました。伏見稲荷大社で夜景が見れるとは思いませんでした。

鳥居が額縁になって、京都の夜景を切り取っておる。

これぞ「額縁構図」。拙者が茶室の窓や庭の造りで大事にしてきたことと同じですよ。見えているものより、何で囲むかが景色を決める。

珍しく同じことを考えておった。朱の鳥居がなければ、ただの夜景じゃ。鳥居があるゆえに、向こうの光が神聖なものに見える。

器が中身を変える、ということですな。

山中の茶屋脇に置かれたキリンの自販機。全品300円均一。

……。

宗匠、どうしました。固まっちゃって。

……300円じゃ。

そうですね。全部300円ですね。

さっき参道で250円じゃった。

山を登るにつれて値段が上がっていきますね。

……神に近づくほど、飲み物が高くなる。これはどういう教えじゃ。

「ありがたいものほど高い」という現世の真理では。

それは真理ではなく商売じゃ。

宗匠、でも考えてみてください。山の上まで運ぶのは大変ですよ。人が担いで運ぶか、細い山道を通すか。50円はその労賃では。

……それは正論じゃ。しかし300円には納得してもお茶そのものが無いんじゃが。

ここには天然水とりんごとレモンとライチしかないようです。

茶とは本来、身体によい薬湯。山登りで不足したときに飲むソルティライチも、ある意味ではお茶じゃのう。

強引な締めですが、私も喉が渇いているのでありがたく300円ソルティライチをいただきます。






























































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