【岐阜】伊奈波神社:夕暮れの風鈴が鳴る古社

岐阜県岐阜市の中心部、金華山の麓に鎮座する伊奈波神社は、1900年以上の歴史を持つ古社である。

美濃国三宮として広く崇敬を集め、旧社格は国幣小社。主祭神は垂仁天皇の第一皇子・五十瓊敷入彦命で、妃の淳熨斗媛命、母の日葉酢媛命ら五柱を祀る。

戦国時代には斎藤道三が稲葉山の麓に城下町を整備する際に現在地へ遷座。さらに岐阜城を拠点とした織田信長もこの神社を手厚く保護したと伝えられており、岐阜という街の成り立ちそのものと深く結びついた神社だ。

明治24年(1891年)の濃尾地震で社殿を焼失したが、昭和4年から昭和15年にかけて現在の壮麗な社殿が再建された。境内には縁結びや開運で知られる黒龍神社や、撫でると金運・勝負運が向上するとされる逆さ狛犬など見どころも多く、パワースポットとして全国から参拝者が訪れる。

夏には楼門前の参道に風鈴が一面に飾られる風鈴まつりが開催され、色とりどりのガラス風鈴が涼やかな音色を奏でる境内は、夕暮れ時には特に幻想的な雰囲気に包まれる。周辺には岐阜公園、ロープウェーで登る岐阜城、岐阜大仏を祀る正法寺などが徒歩圏内に点在し、半日かけて巡るコースが充実している。


アクセスは、JR岐阜駅または名鉄岐阜駅からN系統バスにて「伊奈波通り」バス停下車、徒歩約5分(所要約10分)。





黄昏の斜光が石造りの鳥居と献燈を琥珀色に染め上げ、階段の石畳が光の川のように奥へ延びている

千利休
千利休

誰もおらんのう。

古田織部
古田織部

おりませんな。この鳥居も、この石畳も、この光も、今この瞬間は全部某たちのものでございますよ。

千利休
千利休

1900年の神社が、今夜だけ某たちに貸し切られておるわけじゃのう。

古田織部
古田織部

贅沢という言葉が追いつきませんな。義満公の金閣寺も、義政公の銀閣寺も、拝観料を払えば誰でも入れる。しかしこの光の中のこの静けさは、今日のこの時間にここへ来た者だけのものでございます。

千利休
千利休

金でも銀でも買えんものが、ここにあるのじゃのう。




楼門前の参道に木製の架台が左右対称に並び、色とりどりの風鈴がそよ風に揺られ音を奏でている。

千利休
千利休

聞こえるかのう。

古田織部
古田織部

そよ風が流れるたびに、あちらから、こちらから、風鈴の音が重なって、また静かになって。

千利休
千利休

音というのはのう、消えるから美しいのじゃ。残り続ける音は、もはや雑音になる。

古田織部
古田織部

鳴って、消える。鳴って、消える。次がいつ来るかわからないから、耳を澄ます。

千利休
千利休

しかもこの境内に、今は某たちしかおらん。この音はすべて某たちのためだけに鳴っておるのじゃよ。

古田織部
古田織部

百の風鈴が一度に鳴る瞬間がありましたな。暑かった神社が一気に5度くらい下がった気がしました。

夕光を受けたガラス風鈴が青緑と金の二色に輝き、丸い球体の中に黄昏の空が閉じ込められている。

千利休
千利休

光が中に入っておるのじゃのう。ガラスというのは、外からは透明に見えて、中では光を捕まえておる。

古田織部
古田織部

そしてこの短冊ですよ。みなそれぞれに願い事を書いて、風鈴に下げておる。風が吹くたびに願いが揺れるわけですな。

千利休
千利休

願いを書いた紙が、風に運ばれるのを待っておるわけじゃ。




球体のガラスに光が入り込み、赤というより朱に近い神域の色が空中に浮かんでいる。

古田織部
古田織部

さっきの青緑から一転、真っ赤でございます。

千利休
千利休

朱じゃのう。鳥居の色じゃ。神社に赤はよく似合うのう。

古田織部
古田織部

宗匠が赤を認めるのは珍しいですよ。いつもは黒一択ではないですか。

千利休
千利休

黒はのう、すべてを呑み込む色じゃ。しかし赤は、呑み込まずにただそこで燃えておる。それはそれで、潔いのじゃよ。

古田織部
古田織部

赤にも哲学がありますか。某はもう単純に、この赤が好きでございます。ガラスの中に火が入っておるようで、乙でございます。




赤いガラスの球体が夕日を内側に閉じ込め、それぞれの風鈴がひとつの小さな太陽となって浮かんでいる。

千利休
千利休

近う寄ると、透明な器に光が入っておるのう。

古田織部
古田織部

夕日がガラスに宿っております。もうすぐ空から消えていくものが、ここだけでまだ生きておりますな。

千利休
千利休

消えゆくものを器が受け止める、か。茶碗と同じじゃのう。点てた瞬間から冷めていく茶を、黒楽が静かに抱いておる。

古田織部
古田織部

風鈴もまた、器でございますな。音を生む器であり、光を宿す器でもある。

千利休
千利休

しかもこの短冊には、人の願いまで入っておる。光と音と祈りを一身に引き受けて、それでも涼しい顔で揺れておる。

古田織部
古田織部

風鈴とは、なんと懐の深いものでしょうか。




参道の先は外の世界へと続いており、光に向かって下りていく。

千利休
千利休

帰るとするかのう。

古田織部
古田織部

そうですな。風鈴の音も、あの夕日も、今日だけのものでしたな。

千利休
千利休

しかしのう、こうして石段の上に立つと、向こうに日が沈んでいくのが見えるのじゃ。まるで灯を持って帰れと言うておるようじゃのう。

古田織部
古田織部

今日ここで見たものは、全部持って帰れますな。目には見えませんが。

千利休
千利休

風鈴の音も、赤いガラスの中の夕日も、誰もいない参道の静けさも、すべて某たちの中に入っておる。

古田織部
古田織部

それが旅というものですな。荷物は増えないのに、何かが確かに増えている。




大鳥居が天を貫き、その向こうに岐阜の街並みと夕焼けの空が広がっている。

千利休
千利休

鳥居というのはのう、不思議なものじゃ。あの柱二本と横木一本だけで、こちらとあちらが別の世界になる。

古田織部
古田織部

神様の領域と人間の領域が分かれておりますな。柵があるわけでも、壁があるわけでもないのに。

千利休
千利休

しかも今夕暮れ時じゃ。昼でも夜でもない、この時間だけは、その境界線もあやふやになるのじゃよ。

古田織部
古田織部

言われてみると宗匠、あの鳥居の向こうに街が見えておりますよ。神様の場所から人間の場所が、そのまま見えている。

千利休
千利休

神様もずっとここから街を見ておったのじゃろうのう。道三公が城下を整え、信長公が天下を望み、世の中が移ろい変わる景を。

古田織部
古田織部

そして今夕は某たちがここに立って、鳥居越しに街を見ている。

千利休
千利休

この鳥居をくぐれば俗世に戻る。しかしのう、神域で過ごした今日が、俗世のワシたちを少しだけ変えておるはずじゃ。

古田織部
古田織部

境界線を越えるたびに、人は少し変わるわけですな。

千利休
千利休

じゃから旅というのはやめられんのう。






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